書籍版『NICOLA』の制作編集中、および『薔薇のつぼみの女王のための歌』第一部描き始めの頃のポストを集めました。
当時の情熱や考えていたこと、設定に関するお喋りなどがそのまま残っています。
23.1.29
ちょうどいい機会ですから少し百花の話をします。
彼女のキャラクター性の一部は『少女地獄』から着想を得ています。
自分を詳しく知る人がいない環境で嘘をつき続け、理想の自分でいようとする虚言癖の少女。
百花の「現実離れしていて綺麗で芸術家っぽい中性的な人が好き」は、彼女の少女性の表れです。
自分の心と体を傷つけることのない存在。美しい憧れだけを宿し、生々しい手を伸ばしてこない男の人。それは現実の性にまつわるものを疎む百花の夢なのです。
23.2.8
1ページずつ確認しながら入稿できるデータにしていくのですが 約220ページあり永遠に終わらないような気さえする
その分、ふたたび長い時間をこの作品と過ごしているということなので、きっと終わったら寂しくなるんだと思います
23.2.9
時よ止まれ君は美しい
本当にここで時間が止まっていたら少女たちはどんなにか幸せだっただろうと思っています。楽園が終わりを告げることもなく、永遠に少女のままで
言葉は強いですが、先に真弓が「2.5次元舞台がきっかけのファンではない」と嘘をついてしまったからこそ出てきた台詞。
ちえりは真弓がどんなスタンスのファンかある適度わかるまで自己開示しません。
彼女は好きな服を着ているだけで周囲に勝手なイメージで頭の中までメルヘンと思われて不当な扱いを受けるけれど賢い女の子。
5月「2.5次元からじゃない」と嘘をつく
7月「アニメオタクが大騒ぎ わたしには縁のない世界」
1月「ラノベみたいな軽薄な絵」
これらすべて根が同じで、オタク的かつわかりやすいものを心の中で見下しています
自分は彼らと違って高尚なのだという意識が自己愛に繋がっている少女
23.2.10
実際のところニコラ自身も、初めての大きい役である「高畠クロエ」にキャラを寄せていました。
しとやかで女性的な声色で話したりツイートを文学的にしたりことさら丁寧にしたり。それは本来の彼とかけ離れているわけではないけれど、少女たちの思い込みを加速させるには充分でした。
23.2.11
宝石の国で一番好きなセリフ、「新鮮な憎しみを忘れないためよ」です。
時間がすべてを攫って、強い執着も殺意も愛も苦しみもいつか凪いでいく。
23.2.12
(高畠クロエについて)
性別不明の美女、あるいは美少年。
平たく言うとドキンちゃんポジションのキャラクターです。敵のボスに仕えている色気のある性悪女の位置付け。
高畠華宵の美人画がモチーフになっています。イメージカラーは藤色。
『NICOLA』作中の人気漫画「ムラクモエイト」に登場します。2.5次元舞台版を演じたのがニコラ。
「普通のイケメン男性キャラとは違う。クロエちゃんを演じられる人なんて三次元にはどこにもいない」
などと思っていた真弓は、優雅であでやかで神秘的な舞台のクロエに魅了され手のひらを返すことに。
少女と女、あるいは少年と青年の間くらいの年齢設定です。
和傘は仕込み傘になっていて、持ち手を抜くと細身の剣が入っています。力はあまり強くありませんが体が軽くて素早いです。舞うような身のこなし。
幻覚系の特殊能力があります。それを使う時の花びらが散る描写は舞台でとても映えました。
作中でも言及されていたぽっくり下駄が特徴的です。アクションが難しいため舞台では変更される予定でした。
しかし幼少期からバレエやダンスに親しんでいたニコラの身体能力は、この靴のままクロエとして舞うことを可能としました。
それが制作側の目にとまり、実は舞台で登場シーンが増えています。
余談ですが、原作で高畠クロエが出てくるまで、敵側のネームドキャラはボスである「中原カタギ」一人だけした。イメージカラーは黒。
中原はダークな大人の男性で、ずば抜けて人気の高いキャラクターです。そのため一部では、突然正妻のように登場したクロエはあまりファンに歓迎されていません。男の子ならいいという声が比較的多めとなっています。
原作にはクロエが中原のことを好きだとわかる描写があります。逆は不明。
真弓は「クロエ単推し」かつ「中原×クロエ(男女どちらでも可)推し」です。理由はクロエちゃんの想いが叶ってほしいから。ボスの前でだけしおらしいのが可愛いと思うから。
この組み合わせ、真弓は「公式なんだけど!」と思っていますがファンの中ではあまり人気がありません。
理由は
・前述の通りクロエの存在がそもそも一部の読者から歓迎されていないこと
・中原を含む既存の人気が高い組み合わせと競合してしまうこと
など。
真弓はその狭い"界隈"の空気を敏感に察知し、話しにくさを感じています。
重ねて、線が細くクロエちゃんを女の子と主張しているように見える彼女の作品は敵視されやすい状況です。
そんな中、理想のクロエちゃんを半ば公式にしてくれたニコラは救世主でした。
また、高畠クロエは
「過去に何かあるみたいだけどまだ謎。登場シーンは多くない。ミステリアスで想像をかき立てる」
状態のキャラクターです。
ビジュアルもキャラ設定も真弓の好みですが、この漫画で描いたように謎が多いことも彼女が惹かれる理由のひとつです。
最後に過去の手記を貼ります。
現実に存在している作品としての設定+クロエの過去+ファンとしての真弓
クロエが真弓の思うようにはならなかったいきさつ
23.2.15
(百花の話)
連載時、「クソ田口!!」や「金返せ!!」が好きすぎると笑っていただけたので入れて本当によかったと思っています
私も彼女の性格が好きです
物語的にも、真弓が言えないぶん百花がバンバン言ってくれる構成になっています
23.2.16
カフェで友人の推しのブロマイド帳を見ていたとき、店員さんが近くに来たのでサッと隠したんです。そうしたら
「隠さなくていいよ 私の推しはどこに出しても誰に見られても恥ずかしくないの」
と彼女が言って その誇らしい顔をとても好きだと感じてずっと覚えている
23.2.23
(エマ初出し、紹介)
今描いているお話のキャラクターを少しお見せします。
エマ、漢字で書くと絵茉。かっこいいので本人がカタカナで表記していて、友人らにもそうさせている。
私立の女子中に通い、聖歌隊(部活)に所属している。部活の先輩に片想いしていることを一切隠していない。
『NICOLA』とコンセプトが異なる作品のため、キャラクター要素を強めた髪型にしています。プリキュアに変身する女の子といったイメージです。色を塗るならピンク。ハートと薔薇のつぼみの少女。
エマの好きは憧れではなく恋です。本人が確信しています。そう思っているからそう。
憧れと恋、はっきりと誰かが線を引けるものではなくて 当人がどう思うかかなあ……と考えています いわゆるクソデカ感情と恋の違いもそう
23.2.24
(性嫌悪の少女の話 の話題)
可奈子(この漫画のかなちゃん。性嫌悪がある少女)は、電話相手の杏ちゃんに対して特に高校生のころ強烈な独占欲を持っていましたが、本人が恋愛に分類していません。
私より付き合いの長い中学の友達が存在する、と考えるだけで暗い気持ちになる。部活で学外の男子と関わっているのが反吐が出るくらい嫌。
目の届かないところに行かないで。どうか変わらないで……いっそ全てをコントロールしたい!
けれどプライドが真弓以上に高いため絶対それを表に出しません。
(少女の心臓 の話)
この漫画では「強い感情を持つ相手はいつも女の子だった」けど触れ合いたいとは思わないからみんなの言う恋愛ではないんだろう……という少女の考えがちらりと描かれています
真弓はリアルの性的な話題が苦手で人を想う気持ちをそこに結びつけたくない。
こちら『少女の心臓』は『NICOLA』の連載前の読み切り的な位置付けの作品です。単体で読めて、主人公が同じで、公開していない後半がニコラとの話です
ありがたくも完売していますが紙の本でほしいというお声を頂くことが増えましたので『少女の国』と合わせて再録集の作成を前向きに検討しています
というか自分が欲しいんです、再録集……過去の短い作品も大切に綴じたボロヴィニアの私室に置いてある本に存在していてほしい
(約一年後『ボロヴィニア再録集』実現させました)
23.2.26
いつも言ってしまうのですが 作品を読んで生まれた感情を文章にするのって大変ですよね。人に送るとなるとさらに。
あなたがそれだけの時間と気持ちをかけたご感想やお手紙の一通を受け取れることは、決して当たり前ではないと思っています。見つけてくださってありがとうございます。
23.3.3
ニコラと出会わなければよかったと思う?
と聞かれたら真弓はNOと答えます。
ニコラやファン仲間と交わらずに先に進んだ人生を想像できない。知らずに済んだはずのたくさんの苦しみもあるけれど、呪いが解かれもしました。いま、彼女の手には天使が宿っています。
23.3.4
「私はあいつらとは違う」
という意識、実際はかなり普遍的な感情だと思っています。厨二病と言ってしまえばそうなんですがそんな子が大好きで、静かに燃える自己愛を大切に抱きしめてほしいと思うし消す必要はないと感じています
『NICOLA』では真弓と百花が双方この感情を持っていて惹かれ合い、二人だけの聖域をつくるに至りました。
「ニコちゃんの魅力は選ばれた人にしかわからない」「触れ合えるイケメンが好きな人とわたしたちは違う」
共鳴する二人組の少女という、私の好きを詰め込んでいます。
23.3.5
ニコラのライブは本当に小規模で、カフェで行われるミニコンサートのイメージです。
採算はとれていませんが、舞台とは違う自己表現の場として本人もこの時間を気に入っています。
グッズも極小ロットで作れる手作りに近いものがその時によってあったりなかったり。ピアノのある会場はこの時(6月編)が初めて。
23.3.11
単位を落として嘆いていた真弓ですが、無事取り切りました。
2020年3月時点で1年生だった彼女は、春の暖かい陽を受けて卒業式を迎えました。成人式で着たママの振袖に紫の淡いグラデーションの袴を合わせて、編み上げブーツでハイカラ風に。
実家を離れて東京で暮らし、外の世界を知ることになります。
『NICOLA』完結直後の手記です。
(上の続き)
それぞれとても気に入っているページです。文を書くのも好きなんです。
繊細で思い込みが激しくて想像力豊かな少女が外の世界に放り出されてどうやって生きていくのか、きっとこうして折り合いをつけて"普通"の顔をしている人がたくさんいるのだろうと、祈りを捧げる気持ちで書きました。
最後に「本の形で永遠になるときに、また会いましょうね」と書いてあって、本を編み終わってこれを読み返した今の私が感動しました。
23.3.12
最初は神聖で澄みきった気持ちだったはずなのにいつのまにか魔女になっている少女、悲しくて美しくてとても愛している(真弓のこと)
真弓は自分と共鳴する少女と一対一の閉鎖的な関係を築く。百花が最初ではない。
彼女もまた、子供の頃から続いてきた喪ってはまた見つける真弓の白い指を絡める相手に「選ばれ」て、やがて崩壊を迎え聖域から出ていった。ただ、終わり方が他の女の子たちとは違いました。
23.3.14
(咲良初出し、紹介)
おとなしくて柔和な夢見る文学少女。
ファンタジーが好き。特に小説が好き。空想が好き。自分の意見を言うことや、人の悪意がとても苦手。
エマと仲良し。クラスも部活も同じで常に行動を共にしている。彼女が女の先輩を好きだということももちろん知っていて、心から応援している。
エマとさくらは、真弓が築いてきたような閉鎖的な二人組関係ではなく、エマがリーダーの友人5人グループです。
キャラクターデザインのテーマは
エマ→魔法少女の主人公
さくら→70年代の少女漫画
です。
エマは特別な女の子として存在しているのがひと目でわかるように。
さくらは絵画の天使のようなふわふわした髪型に、当時風の目の描き方を少し取り入れています
23.3.18
「推しのバスツアーで宿泊先が温泉旅館だった。同担と裸を見せ合うのがいやで温泉には行けなくて部屋のシャワーで済ませた。
行き帰りのバスも同担しかいないからずっと張りつめてて楽しめなかった。私、ガチ恋じゃないのに」
と沈む友人の手を握って「もう行かなくていいよ」と言ったことがある
彼女は過去に「推し活のときだけおばあさんになりたい」と話していた
「若い女でいると『応援してます!』が『応援している私を見て!』だと思われてしまう。
でも私だって結局、それがないと言ったら嘘になる。他の子たちと一緒になってひしめきあうことに疲れたの。おばあさんになって自由になりたい」
「強い自意識から解放されたい」と願うこと、そして人は自意識から逃れられないという事実はやがて『NICOLA』の物語を構成するピースのひとつになった
23.3.23
ちえりが純粋に推し活しているだけで後ろ暗いところがない(少なくとも真弓からはそう見える)ことがとても大切でした
そうでなければ、真弓は彼女を疎ましく思う気持ちを正当化してしまうから。
相手が何も悪くないのに"いなくなってほしい"と考えてしまうなんて悪いことだ。だから蓋をしたまま優しいお姉さんの顔をし続ける真弓……という生身の少女が描きたかった。
自分に対する理想が高いがために、「正当な理由がない憎しみ」「妬み」を抱える醜い自分を否定するし認めることができない。
23.3.25
モダンダンスの子ども教室に通っていたとき、発表会で毎回派手なお化粧をしないといけなかったんです。
おしゃれなみんなは喜んでいたけれど私はそれが嫌すぎて泣いていました。大人たちに何かを塗られるのもその顔をたくさんの人に見られるのもいやで、一生お化粧なんてしないもん!と拒絶していた
「お化粧した顔を見られるのがいやだった、怖かった」ことがある人に大島弓子さんの『バナナブレッドのプディング』をおすすめします。
大人の男の人が少女の感性に出会って、否定も踏み込みもせず「なんともいいようがなくなる…」と表現するのも好き
23.3.27
書籍版『NICOLA』、たくさんのご予約を本当にありがとうございます。涙が出るほどうれしいです。
余裕をもって準備した梱包用品の数が足りなくなり、急きょ追加しました。こだわりや熱、作品に込めた想いは伝わるんだなと感じました。この作品を愛してくださるあなたへ、改めてお礼申し上げます。
23.3.31
(再び性嫌悪の少女の話 の話題)
この作品は"同じ・近い経験をしたことがある"というご感想を多くいただき、私の心の中に大切にしまっています
この作品の話し手の"かなちゃん"は文学が好きで美しいものが好きで、潔癖でとてもプライドが高くて性的なものがきらいで触れられたところを切り落としてしまいたいと思うほどの、女子校という守られた繭の外の世界では生きていけないような少女で、"杏ちゃん"は「普通の女の子」で二人は親友。
百花へ共感のメッセージもとても嬉しいです。
主人公にはなれない少女が物語の中でただ一度だけ語り手になり、彼女の世界を吐露していく展開は初期案にはありませんでした。
生々しい現実とはつながっていない百花の夢の恋もまた、少女の聖域です。
お読みいただきありがとうございました。
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