前回 大人の真弓の部屋 全解説+
今回は「大人になるとはどういうことなのか」のお話をします。
連載終了後、
「(弱い部分に共感していた真弓が一気に成長して)置いていかれてしまったようで少し寂しい」
と、柔らかな感受性がそのまま文になったようなメッセージを頂きました。
それもおひとりではありません。
真弓が作品を飛び出して、読み手の心の中で生きていることが心から嬉しかった。
そして、登場人物の成長が喜ばしいながらも、なんだかそのままでいてほしいような気持ちになることがわたしもあります。過去または現在の自分に似ていたり、負の面も愛おしいと思っていたから。
前回も触れましたが、5年分一気に飛んでいるために、彼女の抱えていたたくさんの問題がまるでなくなったかのように見えます。
しかし内面の方でも、全然!そんなことはありません。
繊細で臆病でプライドが高く、すぐ自分と他人を比較して落ち込み、のめり込みやすく夢見がち。
たいていの人は"自分は10代のころから変わっていない"と感じるそうですが、彼女も中身はあの19歳のまま。
けれど自分を知り、ある程度の出来事には対処できるようになりました。
わたしは「大人になる」とはそういうことだと思っています。
たとえば真弓は、ニコちゃんを追った一年間で
「わたしはのめり込み過ぎる性質がある」
「思ったのと違うとショックを受けてしまう」
「生身の人間を追うのは特に向いていない」
と自覚しました。
そこで、具体的な対処として「三次元にはなるべく近づかない」と決めたとします。
どこに素敵なものが転がっているかわからない世界。完璧に制御するのは難しい。
けれどもし、好きになって相手に対する期待が膨らんできたら。些細な言動が理想と違ってがっかりし始めたら。
"あっ! わたし今、心が寄りすぎているな。これ以上は前と同じことになる"と気づける。
自分と対象の境界が溶けない位置まで引き返すか、きっぱり追うのをやめるか。
これで、自分の心という最も大切なものを守り、大ダメージを未然に防ぐことができます。
ニコちゃんだけではありません。
二次元キャラクター・クロエちゃんの変化、そして二次創作"界隈"でも真弓の身にはいろいろありました。
「変化にショックを受けやすいから、完結していない作品のキャラにのめり込まない」
「二次創作は控える」
「"界隈"の場に出ない」
……などの対処が考えられます。
もちろん、場に出たら「楽しい交流」があるかもしれません。だけど「否定されて傷つく」可能性も。メリットとデメリットを天秤にかけた選択も、己を知っていてこそ。
(余談ですが真弓に二次創作は向いていません。はっきり言って場に出ない方がいいタイプです。自分の解釈と世界が強固なのに自信とパワーがないので他人の作風や発言が自分への否定に感じやすい。やがて苦しくなり、最終的に原作そのもの、キャラクターそのものを愛せなくなって人知れず撤退する)
推しや創作の話にとどまらず、ニコラを追った一年で、繊細な心を抱えていてもなるべく傷つかないヒントをたくさん得ました。
「理想と違うとショックを受けてしまうわたしは間違っているんだ…」などと、誰が言い出したのかわからない正しさにとらわれて自分を罰して自己否定に陥るよりも、
「理想と違うとショックを受けてしまうから、こうしよう」の方がずっとずっと具体的な対処。無理に性質を変えようとしなくても前より楽に生きられます。
「大人になる」とは、物分りが良くなることでも諦めることでもなく、自分の性質を知り、転ばぬ先の杖をつけるようになること。
19歳の真弓と24歳の真弓の違いは、ほとんど杖の有無だけです。そして完璧ではありませんから、これから先も何度も転ぶ。
そのたび、学ぶ意志があれば杖の種類が増え、同じように転んで傷つく確率は下がります。
少女から見た理想のお姉さんとして描いてきたルリさんも、過去に散々転びまくって今がある。
真弓は知りもしませんが、ニコラを応援している期間も派手に転んだ始末をつけている最中です(これについてはまたいつか)。
未来の真弓が、興醒めするほどキラキラしすぎないように。過去の真弓の否定につながる物語形式で終わらないように、と最終話を描きました。
真弓が一気に大人になって問題が消え去ったように見えてしまうのは、現時点のわたしの力量不足に他なりませんが…
物語世界へ足を運んでくださる方、お伝えくださる方へのたくさんの感謝を胸に、これからどんどん新たな表現力をつけてゆきます。
本の形で永遠になるときに、また会いましょうね。
お読みいただきありがとうございました。
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