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5年後の真弓の部屋 全解説+




『NICOLA』最終話に出てくる部屋。

5年経ち、24歳になった真弓が住んでいる。


実家を出ており今までの「真弓の部屋」ではない。環境の変化が一目でわかるよう、全体的に生活感のある画に。





❶キッチン

道具はある。調味料も一通り揃えた。しかし料理はあまりしていない。

ママが一人暮らし祝いに贈ってくれた、ティファールのフライパンと鍋のセットが戸棚の中に眠っている。宝の持ち腐れである。



❷押し入れ

本当はクローゼット付きが良かった。けれどそんな部屋は比較的築浅。家賃を考えたらとても選べない。

ここは、もともと和室だったのを洋室にリノベーションしている、都会によくある単身者用の狭い物件。



❸衣装ケース

服が入っているだけ。引越しの際、かさばる衣類はかなり減らした。ワンピースやコートなど丈のある服はハンガーラックにかけている。

とにかく部屋が狭いので、実家にいた頃のように気軽には増やせない。



❹展示に出した絵

紙袋の中に、額縁の箱に入った状態で数枚。入りきらず外に2箱はみ出している。



❺布団一式

大きめの机を置くことを優先した部屋に、ベッドを置くスペースなどない。実家のフランスベッドの厚いマットレスが恋しかったがわりとすぐ慣れた。




築30年以上。

最寄駅まで徒歩15分以上。

ユニットバス。


もとはワンルームだったが、和室→洋室リノベーションの際に引き戸で仕切られ、形としては1Kになっている。そのため各部屋がとても狭いけれど、キッチンなど生活の部分と"自分自身の場所"を分けたかった真弓はここに決めた。


(作画上、キッチンを見せるために奥の部屋を開放しました。普段は引き戸を閉めているのでキッチンは見えません。押し入れもいつもは閉めています)



就職して初めて実家を離れた。

自力で生きていた百花の大変さを、我が身の現実として知ることになる。話を聞いたり想像することと実体験は重みが違う。




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最終話だけを見ると真弓の人生は順風満帆で、もう何の問題もないかのようですが、ぜんぜんまったくそんなことはありません。


彼女は社会の洗礼をもろに受け、今も打ちのめされています。



与えられた環境が当たり前だと思い、常に他人の顔色を伺う"真面目ないい子の長女"だった真弓は主体性が皆無。


バイトも四年間、学内の図書館という外の人と接する機会のない場所。お客さんに理不尽に怒られたことも、自分と年齢や価値観が大きく異なる誰かと一緒に働いたこともありません。



世間知らずのお嬢さんのまま社会に出て、さあ大変。

自分で考えて動くことも気配りも目配りも全然できないのにプライドだけは高くてものすごく繊細でちょっと注意されると大げさに捉えて傷ついてしまう扱いにくい新人です。


最初の一ヶ月はとても良い子だと思われるがだんだんボロが出る、真弓のいつもの人付き合いのパターンがここでも発揮されてしまう。



ただし、ここは学校ではない。

三ヶ月もすれば「あいつはダメだ」と言われて見限られます。


理想の自分になれなかったから、遠い高校に進学して人間関係をリセットしよう!誰もわたしのことを知らない場所に行って今度こそうまくやれる!


……というわけにも、もういきません。


三ヶ月で逃げ帰るなんて、あたたかく送り出してくれた(しかも引越し費用も全額出してくれた)パパやママに言えない。どうしよう……




何も思い通りにならず、自分がちっぽけな存在だと思い知り、体育会系の上司と合わなくて叱責されると涙が出てしまい、「泣けば済むと思っているのか」「女の子は楽でいいよな」と言われる。


名古屋の子はあまり進学・就職で外に出ない傾向にあるため近くに友人はいない。仕事辞めたい、家に帰りたい、友達に会いたい……


24歳時点ではだいぶ持ち直していますが、ほとんど絵が描けなくなった時期もあります。




生活面でも理想通りにはいきません。

彼女の思い描いていた「一人暮らし」は、とても表面的。


好きな家具を置こうとか、おしゃれなインテリアとか、休日の朝ごはんは近くのカフェでベーグルサンドとか、そういうのなんですよ、つまり「夢」の部分だけ。


ところがいざ始めてみれば、実家で当たり前にじゃぶじゃぶ使っていたお湯にすらお金がかかる。プロパンガスだったら悲惨です。

水道代に電気代……生きていくのってこんなにお金が必要で、「夢」じゃなくて「現実」なんだと知る。

東京の高い家賃。広くて綺麗な部屋は選べない。おしゃれな家具があっても合わないし、置くスペースすらそもそもない。



そんな中、同期の子との「生活って大変だね」なんて会話の中で、相手の口から「奨学金の返済がきつい」という言葉が出てくる。

真弓は自分が恵まれていたことに気づきます。大学の学費はもちろん、教科書代、部活の合宿費、自動車学校代ですら親が出してくれた。



そういえば大学2年生の夏休み、「車校(※自動車学校のこと)のためにバイトしかしてない」って言ってた子がいたっけ……

わたしはそのとき、時間がたっぷりあって、ムラステ大阪全通して……



ああ、当たり前なんかじゃなかったんだ。

次に帰るときは、パパとママにお礼を伝えて、うんと美味しいレストランに連れて行こう。






ここまでお読みいただきありがとうございました。

次回、「大人になる」とはどういうことなのか、のお話を書きます。





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