2024年8月24日〜9月1日に開催した初個展、
「かわいいピンクの竜になる 原画展」
でお話ししたこと、思い出、所感です。
日記からまとめて分冊、加筆しました。
今まで描いた漫画作品のお喋りから絵のメイキングまで、大切な記録が詰まっています。
上が最終日〜下が初日です。
初日から読みたい方はここからどうぞ!
◆10月11日 追記:
(日が経ちましたら初日分に移します)
・『NICOLA』作中で舞台化するほど人気がある『ムラクモエイト』は、2024年現在、完結し連載終了している。という話
→真弓は電子版で青年スパークを買い、どう完結したかだけ確認している。なお高畠クロエは最終決戦中に生死不明になり、最終回で生存を匂わせて終わった。
当時いたクロエファンたちは、すでにジャンル移動してSNS上に残っていない。居たとしてもコミュニティも無く真弓のことも覚えていない。
今なら、あの日長い髪を切り落として死んだ、真弓にとって永遠の幻想のクロエを描いても大丈夫。
・10000人に1人の話
→SNSに作品が流れてきたとして、最後まで読んで下さる方はきっと多くても100人に1人。
本の形で作品を手元に置いたり、時間をかけてご感想を綴ったり個人サイトを訪れたり、イベントや展示にこうして足を運んでくださる方は、さらにその中の100人に1人。そのくらい貴重で奇跡的だと思っている。
この話は、文章化すると途端に情緒が減るので私の中に仕舞っていましたが、それでも気持ちは残したいと思って追記を決めました。
10000人に1人の感受性を持つあなたと、少女の国で巡り会えて本当に嬉しいです。
後日、ギャラリー定休日(月曜)のお話も書こうと思っています。
お休みと見せかけて、実はある用事で私は在廊日よりもっと早く家を出て現地にいました。
✧••┈最終日 9月1日(日)┈••✧
・百花のスマホの画面はバキバキ
『NICOLA』本編で、百花のスマホ画面が出てくるシーン=可読性が必要 なので活かせなかったが、バキバキに割れたまま使い続けているという設定がある。
真弓はiphone11(2020年3月時点で最新機種)、百花は中古で購入したiphone8。
原画展で展示していた第一話初稿の下書きには、二人がスマホ画面を見せるシーンがあり、機種の違いがはっきり描かれている。
・会場BGMの話
『Après un rêve』の歌なしクラシック一曲リピートにしていた。
真弓の信仰心が最高潮になる『NICOLA』6月編で、リクエストが採用されニコラがピアノの弾き語りをした曲。
・二人組の絵を描く手順の話
原画展描き下ろしの《内緒話》を例にとる。
デジタルなら、例えば「あ、ちょっとエマが大きいな」と思ったとき簡単に縮小できるが、アナログ作品はそれができない。
最初から二人一緒に描き始めるとこの修正地獄になりやすいので、準備段階ではエマと咲良を別々に描いている。
それぞれスキャンして画面上で合成。
このとき二人の位置や大きさ、バランスを調整する。
→印刷し手元に持ってくる。
新しい紙を上に重ねて背景の薔薇を描く。
→薔薇をスキャンして先ほどの人物と合成。
以降、パーツごとに同じ手順の繰り返し
→下描き完成。
消しゴムで消せるカーボン紙を敷き、全ての線をなぞって手作業で水彩紙に転写。
カーボン紙転写が難しい細部を描き加える。その後、薄いグレーのミリペンで輪郭や境界部をなぞったら塗る前の段階に到達。
ここまでで30時間くらい。
塗りが20時間程度で、構図を考えている時間を除き、制作時間は50時間くらい。
ピンクの竜も慎重に制作していて、「人物・髪・翼・尾・薔薇と蔦」の下描きが別々に存在する。デジタルで言うところのレイヤーが重なっているイメージ。
最終的に完成した下描きを水彩紙に転写した状態が、図録画集メイキングページに掲載されている。
・セイレーンちゃんの古参が現れる
「実はリアルタイムで好きで…」とお話頂いて大喜びしてしまった。なんてうらやましい! 書きながら思い出し笑いしています。
・薔薇の女王のラストシーンで、エマと咲良が「友達に戻ってハッピーエンド」ではなかった理由
ネタバレです。紙の本または電子版既読の方のみここを開けてください。
・咲良が好きで一番共感するというお話
引き続き薔薇の女王関連で。直接お伝えくださったことも嬉しかった。
自分の信じる世界を、小さい両手で守るように抱えている咲良のことが私も大好き。
・『NICOLA』は描き始める前にどのくらい決まっていたか?
→行き当たりばったりだった。
特に、世界が反転してしまう8月編より先の展開は、スタート時点では一切決まっていなかった。8月編の次が最終話になる予定だった。
描くたびにキャラクターの(特に真弓の)解像度が高まっていき、描きながら彼女の人生が明確になっていった。
「リアルタイム連載で3月1日スタート」と決めて、1~2ヶ月くらい前に宣言して後に引けなくした。
長編なんて初めてだし失敗したら恥ずかしいから完璧な準備ができてから始めなきゃ……だった場合、きっと今も存在しておらず、描きたかったなぁで終わって情熱も消えてしまっていたと思うので大正解だった。
・「真弓が自分のようだ」
この手記が完全に自分で特に心に響いた、という話
みなさん思慮深くていらっしゃるので「こんなことを言うのは良くないかも…」と前置きして下さいますが、私は「真弓ちゃんは自分である」系のご感想大好きです。
私自身が、まるで自分のことのようだと感じる物語が好きなので、そうなれて嬉しいからです。また、共感できるほど確立した存在を描けているのだと分かるからです。
・全員三つ編みだった時間
真弓関係でもう一つ。同時刻に聖域を訪れた方々が皆さん真弓のような三つ編みだったタイミングがありました。
本当に嬉しかった。胸がいっぱいになりました。
もしかしたら普段からそうで、特別変えていらしたわけではないかもしれませんが、それでも幸福でした。
・映画『Heavenly Creatures』(『乙女の祈り』)を知った経緯
授業中にヴェーデキントの小説『ミネハハ』の話になり、興味を持ったので読む→
その小説が元になっている映画『エコール』を知って観る→
その流れで、少女を描写した作品を探す→
二人の少女が起こした同じ事件が元になっている映画、『乙女の祈り』と『小さな悪の華』に行き当たる→
前者が衝撃的なほど好みで、以降ずっとこの映画が一番好き
・ピンクの竜の挿絵の線は何を使っているか
つけペンとインク。チタン製の金色のペン先です。その時の写真
水彩紙は紙目の凹凸があり引っかかってしまうため、扱いが難しいけれど、ミリペンの線よりこちらが合うと思って一枚丸ごと描き直すなどしていました。
・「思うように描けるようになるには」→「完璧を目指すよりまず終わらせろ」
制作中の方と語り合った。イベントに申し込むなどして自らデッドラインを設定するとよい。上記のリアルタイム連載も同じ機能を発揮した。
夢を見たいところではあるけれど、残念ながら完璧は存在しない。思い通り描けるようには多分ならない。自分の実力はこの程度なんだ、という思いを何度もしながら、それでもその時点の完成を抱きしめて一段ずつ上がっていくしかない
・鍵の数がぴったり
最後に訪れた方で、「少女の国の鍵」をちょうど配り終えた。
用意したのは自分だけれど運命的で感激してしまった。
たくさんの方が喜んでくださって、後日メッセージ等も頂き、本当に本当に制作して良かった。
以下制作費の話にも触れているのでたたみます
・二次創作アカウントを分けている方の話
この話題面白かったので今後、日記の一ページとして書きます。
なお真弓は「オリジナル(一次創作)」と「クロエちゃんアカウント(二次創作)」を分けていて、クロエちゃんからオリジナルへはリンクを貼っているタイプ。
・会期を通して一番多かったご質問の話
「真弓ちゃんが大好きです。存在していてほしいです。真弓ちゃんは水野さんご本人ですか?」
など、「登場人物との近似度」に関するお話を複数回頂いて、その度に若干ニュアンスの違う回答をしてしまった気がするので、ここに書き記します。
これは本当に難しくて、「はい」でもあるし「いいえ」でもあります。
初期の作品ほど、自分の思ったことをそのまま描いています。それしかやり方を知らなかったから。
経験を積むうちに自分から離れていき、私の気持ちを代弁する存在ではなく、全く異なる背景を持つ確固たる「個」になりました。
この日、あの頃の私と話しているようだと感じたのは、初期の作品の少女たちの叫びは私の叫びだったからです。
キャラクターのシチュエーションや環境、行動の部分は実体験ではありませんが、抱えている感情はほとんどそのままでした。
今思うとだいぶ剥き出しで、照れくさくはありますが、必死で切実で、必要でした。もう同じものが描けないと感じる理由はそこです。端的に言うと大人になってしまったからです。
描き始め特有の作品との距離の近さ、心臓から滴る血のインクから生まれた少女は、この本の中にしかいません。
『NICOLA』が過渡期でした。その前から描いていた真弓は、代弁者ではなく現実を生きる少女になって、自然と私から離れていきました。
19年分の人生があって、異なる背景を持ち、異なる考え方をする一人の人間になりました。
それと同時に、野菊さんなど、それまでの「少女たち」とは全く違う行動様式のキャラクターを長期的に描けるようになりました。
薔薇の女王になるともう、最初からそれぞれの個がありました。
初期に比べて技巧的になりました。例えば、通学路の公園で話すシーンを入れたのは、それがノスタルジーとして機能するからです。
ほとんどの人に経験があり、制服を着ていた頃に気持ちが戻るから。エマ視点でもう一度そこに帰ってくることを考えて、咲良視点を描いていました。
それでもやっぱり、気持ちの部分は近いなと思います。商業誌に連載して複数人が関わっているわけではない、個人が一人で描いている作品だから。
咲良みたいに学校で夢小説を書いたことはなくても、ノートに描いた創作物を大事にしていたことはあります。友人が肯定してくれたら心を許す気持ちはわかります。
今は少女たちを、同じではなくても理解が及ぶ、という距離感で心から愛しています。
以上です。
後から書き足したいことも出てきそうですが、原画展の思い出は一度ここでペンを置きます。
一緒にお楽しみ頂きありがとうございました。
以降は今まで通り、SNSには更新のお知らせを載せず、好きなタイミングで書く日記に戻ります。
私室の鍵は開いています。いつでもいらしてくださいね。
✧••┈8月31日(土)┈••✧
この日は読書会イベントがありました。
昼の部 14:30-16:00
夜の部 18:30-20:00
各定員10名
私は壁の飾りのつもりで来たのですが、お手紙を頂戴したりお声がけ頂いたりとても楽しかったです。
川野さんがお話された内容を私が印象で書き起こすと、言葉が変わってしまい、異なって伝わる可能性があるので触れすぎず、今まで通り私の所感メインで書きます。
・司会を務めた堀川夢さん(『かわいいピンクの竜になる』外編集ご担当)より、
「この会を誰もが安全な場にしましょう。性別、国籍、人種など今すぐ変えられないことで辛い思いをする人がいないよう、想像力を持ち、ご自身の発言には注意を払って下さい」
という旨の冒頭の挨拶があった。
ピンクの竜の本文に流れる志にも繋がっていると感じた。改めて、素敵な方々とお仕事ができたと思う。
・私の新刊セットのノートを読書会でお使いの方がいらして、なんて最高な使い方なんだ……と感激して読書会終了後思わずお声がけしてしまった。嬉しかったです。
→実際新刊セットのノートはとても好評だった。
書き物や絵が好きな方、日記やスクラップブックなど記録をつけることに喜びを感じる方が多くいらっしゃると感じるので(私もそう)、今後単体で作っても良いかも
・「『かわいいピンクの竜になる』を知ったきっかけを教えて下さい」の質問に、
「水野さんが表紙を描いていたから」「もともと水野さんの作品を見ていた」「書店でたまたま絵が目に入って一目惚れ」
など、私や私の手がけた装画きっかけとするご回答をいくつか頂き大変光栄だった。
・本文が始まる前の、冒頭の短歌が好きという話。私も好き。「この姿」って自分ならどんな姿だろうと想像する時間。
・「水野さんから頂いたラフの資料の中で、薔薇の咲き方まで指定してあった。関係者みな、これはすごいぞとテンションが上がった」という話。
→そのくらいの真摯さとこだわりをもって臨んだお仕事であることは確かだが、それを相手に受け取ってもらえるかどうかはまた別。
このように喜んで頂けて、こちらこそ大切にしてよかったなと感じている。
→この資料は図録画集に掲載している。
・推し香水の話
「この中で推し香水を作ったことがある人いますか?」で名乗りそうになる。
→別に出てもよかったとは思うが、今日の主役は川野さんと、ここにいらした方。
私は関係者のため、私が出たら皆さんは自分の思考を止めて私の長い話を聞かざるを得なくなってしまう。
時間が限られている中、それは望んでいなかったので当初の予定通り後ろで、壁の飾りとして静かに会を楽しんだ。
→「壁の飾り」関連で……
入れ替え時間に堀川さんと「川野さんがピンクのお洋服でいらっしゃると思って、目立ちすぎないよう黒で来ました」「わかります私もです!」という会話になる。考え方が近いなと思う。
・「あなたは何に怒りを感じますか?」
参加者さんから川野さんへの質問。私も含め、きっと皆さん自分の答えと、どんな価値観で生きているかを考えるきっかけになったと思う。
・「好きな服を着ることが必ずしも解放ではない」
という話。私はこの話が一番心に残った。
あなたも着なよ、と軽々しく言わない。「じろじろ見られたくないという気持ち」のほうが、その人にとって、外で好きな服を着ることよりも大切かもしれない。
「人にどう思われるかを大事にしている」もまたその人の選択であり、簡単に蔑ろにして良いものではない。という話。
→ものすごく真弓のことを思い出して、救いだな、と感じた。これを言ってくれる人がいたら真弓は泣かずに済んだかもしれない。
ボロヴィニア再録集の中の、真弓がロリィタを着る漫画は
「学校で笑われる→友達に話す→人目が気になって着れないならその程度なんでしょ(要約)と言われる→弱い自分を否定する」
というフルコンボだった。
好きなものも、恐れる気持ちも、誰も肯定してくれなかった。
「その程度なんでしょ」ではなく、「協調性を大事にしているから気になるんだよね」等、寄り添った言葉をかけてあげられる人になりたい。
・とても美しい箔が押された名刺を見せて頂けた。冷たい海のような色。
私も使いたいな、と思うものの、こういったものは探したり試すにも時間とお金がかかると知っているしその人のこだわりだったりする。
成果物だけ見て「私も使いたいからどこの何なのか教えて」などと言わないようにしている。
→ので当日聞かなかったが、後からご連絡頂いた。天使かも。
・「コミティア150で会いましょう」
節目の回だしコミティア大好きだから申し込みたいけど、新作はきっと出せないな……
と考えていたところ、「コミティア150ご予定ありますか?」「私、申し込みました」とお話頂いた。
ああ出ようと思ったのでこの夜申し込んだ。
・ピンクの竜のドローイングを川野さんがお迎えして下さった。お守りにするとお話頂けて光栄だった。
竜であることをメインに描いた作品。この形になるまで難産で時間がかかったけれど、今日連れてくることができて良かった。
以下長いのでたたみます
✧••┈8月29日(木)┈••✧
・ピンクの竜の挿絵のうち、人物画の3枚はそれぞれ「顔の良さ」に注目が行きにくい工夫をしているという話。
本文の内容を考え、お顔をメインに据えるべきではないと思ったから。どの作品も全体のシルエットと衣装が主役。
(この話は読書会イベントの日にXでも公開した)
・在廊休みの日の話
メモ:四日目(8/28)は在廊休み
自分の体力回復の意味もあるが、それぞれの鑑賞スタイルを尊重したいのでわざと不在の日を作って選べるようにしている。
作者がいると落ち着いて見られない、など様々な気持ちがあって当たり前。訪れて下さった方にとって心地よい時間になってほしい。
・「あの頃の私すぎて私と話してるかと思った」
これはかなり繊細な話になるので、ここより外には出しません。
この聖域を訪れてくれた未成年の女の子が、「今日とても苦しいことがあった」と話してくれました。
彼女のプライベートですから詳しい内容は残しませんが、それは『少女の国』の可奈子の叫び、『少女の心臓』の真弓の絶望と同じ種類のものでした。
逃げ込むようにこの聖域を訪れ、私の最初の作品が入った再録集を読み、「今の私が思っていることが書いてある」と驚く少女。
ちょうどその時、私の友人が会場に居合わせていました。この子 です。(先日、友人の舞台を〜から)
搬入の日に受け取った、天使像のいる「友人一同」のお花の贈り主である彼女は、まさに私が未成年の、苦しんでいる少女だったころ心を打ち明けた安心できる相手でした。
ただの一度も、未熟な集団らしい人間関係のごたごたに関わろうとすることなく、他者の悪口を言わず何かを誇示もせず、いつも穏やかで、私がもがいて大人に近づいていくところを、ずっと見守ってくれていた大好きな女の子です。
大好きすぎてすごく執着していて、きっと向こうもそれがわかっていたはずなのに、私をとても大事にしてくれて、感謝してもしきれません。
いつもこの「原画展の思い出」は行き帰りの電車の中で書き進めていたんですが、彼女の話に差し掛かると泣いてしまうので続きが書けなくて、それでちょっと時間がかかってしまいました。
だって、彼女が一番よく知っているころの私とそっくりな次の世代の少女が訪れて、
苦しみを飲み込んで大人になって作家になった私がどうにか形にした初めての作品に触れて気持ちを打ち明けてくれているところに、偶然居合わせているなんてできすぎているから。
その場でも少し泣いてしまいました。ピンクのワンピースのお嬢さん、びっくりしましたよね。ごめんなさい。こういう事情だったんです。
「あの頃の私すぎて、私と話してるかと思った」と次の日にメッセージを飛ばしたら、
「本当にそうだなと思ったよ。
かつてのみやちゃんのような少女たちの、かけがえのない拠り所なんだね」
と返してくれて、彼女の包み込むような言葉があの頃から何も変わっていなくて、大好きすぎる、と思いました。
・『あなたといる幸福』をとても大事に、宝物のようにずっと見つめて下さる方のお話
二人と静かに対話しているかのように、その方と絵だけの世界ができていて、月並みな言葉だが嬉しかった。
ある美術館の展示に行ったとき、同行者の女性が「やっと会えたね」と絵の前で涙している姿がとても美しかったことを思い出した。
・アリプロを聴きながら来た、という話
世界観に浸り気分を盛り上げるために。
同じ「原画展に来る」でもそこに至るまで、そして帰ってからもそれぞれの方の感性ごとに楽しみが生まれている。
ピンクや菫柄のお洋服を選んで訪れることだったり音楽を聴くことだったり、自由な喜びがある
・まだアニメや漫画にも触れていない状態だけれど、あなたの描く貝の家に住んでいる人魚の女の子のセイレーンちゃんが好き、という話
私のための夢や幻想が人の心に届いていて、照れたむず痒さと幸福さの波が一緒に来た。
・「友達じゃないから」の話
再録集の中の、真弓がロリィタ服を着る漫画で笑われているのはその人たちと真弓が友達じゃないから(関係性が希薄な相手であり好きではないから)。
エマが女の先輩に恋をしていることを笑うクラスメイトも友達じゃない。友達5人グループの中では、エマに対していろいろ思うことはあっても先輩を好きだという部分を馬鹿にする人は誰もいない。
この話は手記書きかけ、かつ真弓の件は再録集の中で話しているため全ては記さないが、私のこだわりの一つである。
好きなものを笑うキャラクターは、少なくとも現時点で友達ではない人。
そして、ちょい役のクラスメイトも物語的な悪人ではなく現実の一般人。ロリィタを着ている/女の先輩に片想いしているのが自分の友達だったら笑わない。
笑う理由の本質は「友達じゃないから」。
何をするかではなく誰がするか。
なぜこの話題になったかというと、「ロリィタが好きで、最近着はじめた。周りの人は受け入れてくれたけれど、いつか誰かに何か言われるかも」という話が出たため。
あくまで私の感覚だが、「ロリィタファッションを受け入れてもらえた」のは、これまでにあなたがその友人関係を築いてこれたから。きっとこれからも大丈夫。
何か言ってくる人は、あなたを大事に思っておらず、友達ではない。
✧••┈8月27日(火)┈••✧
この夜、夢のようにすてきなゲストがお越し下さいました。突然のことに感無量で、15歳の女の子に戻って泣いてしまいました。
まだ新鮮すぎますから、この記憶は私の心の中にしまっておきます。ゆるやかに幸せな過去となりはじめたころに書きます。
・ギャラリー月曜日定休のため、火曜日の今日が会期中で初の平日。
時間が遅くて来づらいかも……と心配したけれど多くの方が聖域を訪れて下さった。ありがとうございます!
・「私の作品の中で『NICOLA』が特に好きで、趣味が偶然同じだった初対面のお二人がご友人になるところを見届ける」
という幸せなできごとがあった。
→とても盛り上がっていて楽しそうだったので貴重な巡り会いを邪魔しないよう、しばらく離れていたため会話自体は聞こえていないが、真弓と百花が仲良くなる姿に重なって静かに感激していた。
この展示空間が、現実では言えない、心の柔らかいところや大切なものの話ができる聖域になっていることが何より嬉しかった。
・「心にいつもちえりちゃん」
推し活をしていて心が揺らぐことがあったとき、「こんなときちえりちゃんならどうするか」を考えて行動を選択するように意識した結果、苦しむことが少なくなった。楽しく幸せな時間が増えた。という話。
胸が熱くなった。彼女たちが物語の枠を飛び越えて人を勇気づけている。
・物語を作るお仕事の方との対話
仕事の制作と自分のための制作、幻想を追いかける話。
仕事で作ること
=自分以外の誰かの希望を叶えること
(ここに書いていた内容が格好つけすぎてなんだか照れくさいので一旦引っ込めました またいずれ)
→後で考えたこと
今回は川野さん・左右社さん・私の目指す方向性が一致したが、例えば
「表紙は顔が良くて胸が大きいドラゴン女子キャラにしてください」
と言われても仕事を受けたら基本的にその通りにしなければならない。そうじゃないよなと感じていても。
・『少女の国』でちえりちゃんポジションのキャラクターがガールズバーでバイトしていることに真弓が強いショックを受けている。
その設定は『NICOLA』本編に引き継がれているのか?
→引き継がれている。
『少女の国』は2019年に描いた作品で、構想はそれより前。2020年設定の『NICOLA』の中なら「コンカフェでバイトしている」にする。
ちえりがそれを選ぶ理由は「かわいい衣装が好きだから」「気の合う友達と一緒に働けるから」
一方で、高校に通いつつバイトしながら大阪から遠征し舞台に行きまくるのは体力があっても時間的に無理かも……と私は考えている。
現実のお話のため、不可能なことはできない。整合性が取れなくならないよう今まで話さなかった。
たとえこの設定がなくても、ちえりはガルバ/コンカフェの仕事を真弓のようには考えていないことに変わりはない。
(メモ:この話は会期5日目にもご質問頂いた)
・『NICOLA』は2020年の作品だが私の中で今も新鮮、とお話ししたら間髪入れずに「私の中でも新鮮です!!」と言って頂けて幸せだった
・「みやこさんの日記を読むのが好き」とお伝え下さる方が多くてとても嬉しい。
SNSはパブリックになってきたので、心の柔らかい部分に繋がる話はほぼ個人サイトに書いている。
わざわざブラウザを開かなければ来られないところに訪れてくれて、感覚を共有できる人がいるのだという穏やかな安心感がある。
・セイレーンちゃんが助けてくれた話
年月が経つにつれ様々なことがどうでも良くなって、気付かないうちに感性が鈍っていくのかも、と恐ろしく感じていた。
が、セイレーンちゃんを最初に見た2017年はここまで拾い上げることはできなかったのに、作家活動を経た2023年に彼女を再び見つけて一人で大盛り上がりし、何が好きなのか言語化できているのでなんだかとても安心した。
むしろ研ぎ澄まされているとわかって、恐れることはないのだと思えた。
◆仕事の制作と自分のための制作の話の関連
『NICOLA』で真弓が文庫表紙に応募して落ちるシーン。
大好きな本の作者の可奈子さんに直接否定された……と感じて深く傷ついているが、実は可奈子はほとんど選考に関与していない。
最終候補を確認して「どれでも素敵だと思います」と返信したくらい。
可奈子は自分の作品が完成したらあとはどうなろうとさほど構わないタイプ(ここが結構真弓とは違う)。イメージが離れすぎていない限り、出版社主催の企画に口を出さない。
というわけで別に真弓の作品を否定してはいない。そもそも見てもいない。
忙しくて常識的な可奈子が、他にもたくさん仕事を抱えている出版社にわざわざ連絡をとって応募作品を全部送ってもらう、なんてことをしているわけがないから。
たまにお話ししていて、ボロヴィニア再録集にもまとめていますが
『NICOLA』本編で名前だけ出てくる、真弓の好きな小説を書く可奈子さん=『少女の国』の性嫌悪の少女の話のかなちゃんの未来です。
(『NICOLA』1月編冒頭より)
可奈子の綴る高潔な少女たちの世界が真弓に強い影響を与え、「まるで私のことが書かれているようだ」と救いを感じ、
やがてたくさん傷ついて迷っても立ち上がり自分で筆をとって、いつのまにか次の世代の同じ感性を持つ少女たちの先導者になっています。
これは今後描く予定なので全部は語らないようにしますが、今までの作品の中にすでに、大人になった真弓のファンで『NICOLA』が大好きな子がいます。
✧••┈8月25日(日)┈••✧
・ドリンクが好評でうれしい。「ピンクの竜が薔薇、ボロヴィニアがすみれ」とリクエストし、店長さんが仕上げて下さったもの。
・アリプロの絵(Violetta Operetta)も好評でうれしい。「幻想的で、彼女自身が月光そのもののよう」とご感想を頂き、その言葉が出てくる感性が素敵だ……と思う。
・絵があることそのもの、原画を見れることそのものを喜んでくださる方がいる。
アナログ作品の良いところだと感じるし、今この時間ここに来てくださっていることが奇跡的である。本当にありがとうございます。
・薔薇の女王第一部で、咲良が大事そうに持っている小説の新刊帯には「待望のアニメ化!!」と書いてある。咲良は喜んでいなくて他の4人は楽しみにしている。
→エマひとりになら心のうちを話せるかもしれないが4対1では言えない。秘める。という話
・薔薇の女王関連で、「痛くなれる場所」の話。
同い年の子達だけで大人から見たら痛々しいことをする時間は貴重で必要だった。
今はSNSで大人たち(もう自分は痛さを卒業したと言いたい人たち)に見つけられて指をさされて拡散され笑われてしまう。
・会話の流れで、私の好きな胡蝶しのぶさんともう一人のキャラクターの話題になる。固い握手を交わす。今ここに書いていてまた思い出して面白くなってきた。もっと話したい。
・神格化、偶像化の話。エマの好きな先輩は聖女ではない。たった一歳しか変わらない人間。
ニコラは芸能人、しかも天使を自分から打ち出していて求められる姿であろうとする仕草も見受けられたが、先輩は同じ学校の一般人。
→偶像化を破る話の流れで『キルケ』という小説を紹介して頂く。その方の持っていた袋からスッと本の実物が出てきてなんだかこう……最高だった。分厚い! 読み応えがありそう。
→「絶対好きだと思います!」とおすすめ頂いた映画:『ひなぎく』『ソウルメイト』『ガール・ピクチャー』
・少女の万能感の話。私の思う少女性はそれと密接に繋がっている。
・川野さんのファンです、と話してくださる方、みなさん川野さんに似ていると感じる。
私の言葉で表現するなら、制服を着ていた頃は利発な少年少女であっただろう、そしてそれゆえに傷を負ったことも少なからずあるだろう、と感じる、凛とした瞳の輝きが美しい聡明な方たち。
・ペン画に修正跡や消しゴムの跡がないという話。言われてみればそうだが、特筆すべき点とは思っていなかった。自分の描く線が好きなので嬉しい。
→ドローイングもそうだがいきなり本番の紙に描き始めず、何工程かかけて完璧に近い下書きを作ってから実制作にかかる。完成度が高くなりボツにもなりにくい。時間はかかるが安定する
・いつも使っている文房堂の練りゴムを忘れる。会場に消しゴムもなく途方に暮れて「助けて……」とXで発信する。すみません その節はありがとうございました!!
・NICOLAの大人キャラ2人の話
自分の身の回りの世界しか知らない学生の真弓から見て、野菊さんは人生のステージが違いすぎるため遠くてよくわからない。ルリさんはプライベート不明だが近い空気を感じており、自分と地続きで考えられる存在。
野菊さんは「来るもの拒まず去るもの追わず」適度な距離感を保ち肩入れしない。
・「同性の先輩や先生に強く憧れていた/初恋だった/執着していた」という話をしてくれる方たち。今まで頂いたご感想のメッセージの中にもたくさんある。
これらの作品を描いている水野みやこになら話しても大丈夫だと思って下さっている信頼を感じてとても嬉しいし、共感する。あなたの白百合の魂に幸あれ。
【初日 追記】
・『NICOLA』で一番好きなシーンは12月の真弓の「否応なく20歳になる」で、自分の気持ちが言語化されていると感じた、同じ心を持っている子がいると感じた、という話。
嬉しかった。この回はたくさんの葛藤があって私も好き。
昨日までの自分と地続きで何も変わっていないのに、突然大人の世界に追い出される寂しさと恐ろしさ。
・数日経ったので書く。初日の最初に並んで下さった方のもとに私の最初の少女が行くことになった。本当に光栄に感じた。大事に包もうと思う。
原画は個人のお部屋に飾るには大きいし読めないし食べられないのに安くはないので、たまたま人生の中で運命的な巡り合わせがあった方はどうぞ、と考えている。その運命に出会えて彼女たちは幸せです。
✧••┈初日 8月24日(土)┈••✧
・朝、在廊用のワンピースを下ろし、ヘアセットに行った。儀式に近い。
・一時間前に会場入り。とにかく初日を無事迎えられてよかった。昨日あんなにダンボールに囲まれて、7人がかりで準備したのと同じ部屋であることが信じられないくらい静謐な世界があった。
・「ずっと好きでいなきゃ嘘、裏切り」という真弓の感性の話。潔癖さ。好きなところの一つ。
そう思っている19歳の彼女は、まだ自分が変わったことがない。ニコラに対する気持ちの変化を自分自身で経験した社会人の真弓は、「嘘」とまでは言わなくなっている。
・エマの存在そのものを愛してくれている人がいる。本当に嬉しい。
彼女は「友達になりたい女の子像」ではないし そう描いてはいないけれど、とても魅力的で、咲良の瞳に映るエマは完璧な少女。ピンクのハートのヘアスタイルも込みで。私もエマが大好き。
・頂いたお手紙から良い香りがする。
・見てくれている人と自分の作品に対して誠実であるという話。
"こういう姿勢の作家でありたい"という話題はなんだか格好良すぎるので照れくさいが、私が大事にしたい部分が伝わっていて有り難く感じた。
・真弓、完璧主義で自分を苦しめているが他人を見る目もけっこう厳しい。言い換えると人間全般に対して理想が高い。まだ世界に期待したまま生きている少女。という話
・ちえりちゃんが好きな人はちえりちゃんに近いという話。実は前日に、川野さんがちえりちゃんが好きだと話して下さった。
ピンクの竜を読み、魂の自由さを彼女と重ねていたので一人で納得した。ちえりも「自分のこと可愛いと思ってるでしょ」と間違いなく言われている。
・朝から何も食べていなかったので差し入れを開封。生き返る。
・女子高から共学の大学に進んだときのギャップの話。私の『少女の国』(可奈子の話)および再録集描き下ろし、薔薇の女王のエマ、『かわいいピンクの竜になる』本文に共通している。
・ピンクの竜概念コーデで来て下さった方と女子校出身の方が重なったタイミング。三人で人生の話。学校や会社など現実の人間関係でなかなかこうはならない。とても貴重な体験だった。
・『NICOLA』を経ても実際のところ真弓の心の柔らかいところは何も変わっていないという話。社会人のペルソナの獲得と、ある程度の自己理解のみ。それだけでなんとか生きていける、丸裸だった19歳の頃よりは、やり過ごしていける。
・漫画原稿展示の中の、あるページが人気。嬉しい。持ってきて良かった。
・「アリプロの曲のイメージで絵を描いていた時代から見ている」とお伝え下さった方。時が巻き戻った。
私がまだ水野みやこですらなく、学校の友人に呼ばれているシンプルな愛称をそのままHNにしていた頃。(†黒柘榴闇姫†とかではなくて良かったとは思う)
美しい世界への渇望と技術が追いつかない苦しみ、遠い理想、青さ、純度の高さ。
・ギャレット家の画集に少し書いてあとは伏せた話の概要を初めて人様に話した。なんだか自然と。口に出しても大丈夫で、この聖域にいる人になら聞かれても良いと思ったから。
・大まかに分けて、展示作品を静かに見たい人と感想を伝えたり話したい人がいると思う。どちらも尊重したい。原画展を訪れて下さったすべての方に、ああ良い体験だった、と思ってほしい。
・中学の同級生が来てくれた。教室で絵を描きあっていた頃の話、格好いいと思って言っていたことや、やっていたことがあるよね、という笑い話。
→「鑑賞しているところを作者さんに見られていると感じると私でも緊張する」
確かにそうだな……と思う。逆の立場だったらソワソワしてしまって集中できない。最初に一礼をしたら一番奥の席に引っ込んだほうがよいか? もしくは別のことをしているとか。
・この日、会場に最大9人(来場者さん7人+私と店長さんで2人)が同時にいる時間帯があった。
→キャパオーバーを感じた。ゆったり楽しんでいただきたいので5人目からは外で待ってもらうべき? とはいえこんなに混むのは初日だけだと思う
読書会の日は同じタイミングで10人が訪れることになる。実質前後の時間帯も貸切。改めて告知したほうがよい。
・ドローイングの販売はいつからですか? と質問して下さった方が4人。ありがたくも申し訳ない。私の中でニコラの日(8/29)初出し予定。
・夜、大雨になった。少し落ち着いたタイミングで上記中学の同級生と一緒に駅まで歩き、帰路についた。
・私はボロヴィニアを一生同じ温度で好きでいてほしいとは思っていない。と改めて考えた。それは他者に求めることではないし、私自身が変わったことがあるから。
あんなに大好きで傾倒していたアリプロ。今も好きで、深く感謝しているけれど、少女期の狂おしいほどの熱量がずっと続いているわけではない。
かといって興味がなくなったのとも違う。季節が過ぎ、私の感性の一部となり、穏やかな大切さに変化している。
過去の自分の好きを否定したり馬鹿にする気持ちになったことは一度もない。それは悲しいことだから、無くて本当に良かった。
そんな風になりたい。ボロヴィニアに来れて良かったと感じられる世界を作りたい。いつか環境や感じ方が自然と変わっていき、最初にこの国を訪れたときのあなたでいられなくなっても、ふと思い出して少女の魂になって帰る場所になりたい。
お読み頂きありがとうございました。
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