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他人の二次創作が楽しめなくなった少女の話


「見る専だった頃は他人が作るすべてのクロエちゃん作品を楽しんでいたのに、自分がアカウントを作って描き始めたら見れなくなった真弓」


の話です。創作漫画『NICOLA』より。



ブルースカイで頭出しをしたら深掘りしたくなって、そのまま移動してきました。


なお、私は真弓のこういう生の人間らしい繊細なところが好きなので、この感覚は悪である! やめるべき! などとは絶対言いません。




 



さっそくですが原因は主に二つです。



1.解釈違い


真弓は、クロエちゃんを「優美・湿度高め・性別不明」と捉えている。


これはニコラ演じる舞台版のクロエが出てくるまで、二次創作の狭い"界隈"の中では少数派。真弓はうっすらとした迫害を経験し、他人のクロエちゃんを受け入れられなくなっていく。



(ニコラ演じる高畠クロエと感激する真弓。『NICOLA』3月編)




作中ではっきり苦手だと言っている「変態化」だけでなく「普段フェミニンだからこそ雄みをチラッと出してくるのが良い」などの多数派の嗜好がどんどん無理になる。


面白おかしい感じや、いわゆるオネエっぽい雰囲気に描かれるのもだめになる。もはや自分しか信じられない。




(肯定してくれる人もいるが息が詰まる環境。『NICOLA』3月編より)



なお、ぴったり解釈が合えば楽しめるかというと、実はそうではない。後述。






2.嫉妬


物語開始時の真弓は「理想ばかり高く自分では表現できなくて焦っているが、失敗が怖くてがんばれない」状態。


自由に描けている(ように見える)他人が羨ましい。

上記の解釈違いクロエちゃんが評価されまくって面白がられて数字がたくさんついているのを見ると猛烈に悔しくなる。品がないくせに、と内心思う。


どうして自分は上手く描けないんだろうと余計に焦りが強くなり苦しむ。

数字が見えるのも過剰に気にしてしまう要因。見ているだけの頃が一番楽しかった。




 



そして、先ほどの「解釈が合えば楽しめるのか」の話ですが……



「解釈が合って、自分より上手く、自分より評価されている絵」



これが真弓にとって実は一番しんどいです。

自分がやりたいのにできないことを先にやられてしまったと感じるから。好きだけど嫌い。


「絵」に限定したのは同じ土俵と感じてどうしても比べてしまうから。自分の無力さに悲しくなる。

小説は純粋に楽しんでいる。クロエちゃんファンとして半年も過ごしたらもう文しか読まなくなっている。もし真弓が文字書きだったらその逆。



真弓は"界隈"という社会に出た以上、透明人間ではいられなくなった。自意識を通してしか他者のクロエちゃん作品を見られなくなった。





(界隈という小さな社会から去る選択をした。『NICOLA』1月編より)





なお、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、これらは他人の存在や他人の作品が変わったらどうにかなる話ではなく真弓本人の問題です。


「自分でやりたいけどできてない=自分に満足していない」状態だから発動している苦しみです。立ち上がって乗り越え、自分の理想のクロエちゃんを自分で描けたら自信がついて呪いは解けます。


もっとも、それができるほどの力を持ったころには作ることに忙しく、他者のクロエちゃんを見る時間も解釈を読む時間も比較して悩んでいる時間も無く、いつのまにか考えなくなっているでしょう。






呪いでも何でもないんです。本当は。


「みんな仲良く」という教育を受けてきた真面目な良い子の長女の真弓は、作中の通り、負の感情をなかなか認められません。

だから"呪い"と表現して一番美しい解決方法だけ書きましたが、他人の作品がしんどいなら別に見なければいい。


無理に蓋をして我慢して嫌われることを恐れて誰にでもいい顔をしてファンダムに所属し続けようとしないで、「人のクロエちゃんが見れない正しくない悪い子の自分」を助けてあげること、「わたしってこうなんだ」と抱きしめることも彼女には必要です。




 



「真弓と高畠クロエ」を考える中で、まとまった手記のページになりました。

これをベースに漫画を一本描きたいくらい、あまりにも真弓で大好きです。


ただ、この手の内容はSNSとの相性が良く、刺激的になりやすいです。そしてそれは望んでいません。


もし本当に作品にするなら、表現したい核の部分は何なのか(たとえば少女の繊細な心理、潔癖さ)を明確にしてそこからブレないよう丁寧に紡がなければならないと感じています。



そういった理由から、この手記も前回のちえりちゃんの話と同様、Xから直接飛べる更新のお知らせを出しませんでした。真弓の心の柔らかいところを守るために。

お読み頂きありがとうございます。


私は真弓をとても大事にしています。今ここに生きている人間であるかのように、彼女の揺れる三つ編みと潔癖な魂を眼裏に浮かべ、あの子はどうしようもなく少女だな、と時折思い出して頂けましたら幸いです。






手記の目次はこちら


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