美しい一本道を作る
- 水野みやこ
- 2023年3月9日
- 読了時間: 6分
更新日:1月21日

『NICOLA』を本にするにあたっての編集・修正に関するお喋りです。
漫画の構成やこだわりについて触れています。
最初に、主な修正点は以下です。
・感情が伝わってこない絵の差し替え
・情報量を減らす
・台詞回し(書き言葉から話し言葉に)
他に細かい変更点は
・真弓の苗字
・各キャラクターのLINEアイコン
・固有名詞の削除
最後に
・真弓がいい子になりすぎてしまったシーン
についてお話しています。
・絵の修正について
「大事な場面なのに感情が伝わってきにくいところ」に絞りました。
前半の話ほど、絵が古いからといって色々と直したい気持ちになってしまいますが、全て新しくしていては軌跡を本に綴るという趣旨に反する上に永遠に終わらないからです。


自分たちが選んだお花と一緒に写真を撮ってくれた天使。想いが届いた喜びとときめきが高まるシーンなのに大人しかったので、枠を抜いた大きめの絵に変更。目を輝かせる少女。


6月後半、信仰心が最高潮の場面です。
修正前だとまだ正気を保っている感じがしたので差し替え。
ライブシーンであること、輝く天使を見つめていることから、前から光を受けている影をつけました。ひとつ上の修正もそうですが手の表情を入れて感情豊かにしています。


9月、視点が百花に移る回。
修正前のモノローグはほとんどすべて、8月編の真弓との電話の中で言っていることなので改めて長々と説明する必要はありません。
彼女の軽蔑と苛立ち、失望が伝わるよう顔をメインに、スマホを見ているのがわかりやすい絵に差し替え。
このほかにも絵の修正をしているシーンがあります。
・情報量を減らす
説明的になると読みにくさを感じてしまいます。いらない情報はノイズとして物語の中に入っていく妨げになるため、できるだけ削りました。
こちらは修正前の第一話、ニコラのことを説明する場面です。

ごちゃついていて、読んでくださる方にあまり親切ではないと感じました。舞台と音楽で名義が違うなんて、この先の物語に全く必要ない情報です。
ここで伝えるべき(=この先へつながる)内容は、
・自分たちの推しであること
・天使がコンセプトであること
・男性であること
・2.5次元で性別不明キャラを演じ、知名度が上がったこと
です。
文字を減らしたのが以下の状態。

字以外は変えずにかなりスッキリしました。
今後の展開ですぐわかることなので、「歌 演技 ダンスもこなす」も削ってしまっても良かったかなと思います。
先ほど少し書きましたが、漫画の画面を構成する上で「読んでくださる方に親切であること」が一番大事だと思っています。
モノローグが詰め詰め、絵にメリハリがなく状況が理解できない、誰のセリフかわからない、次にどこを読めばいいのか目が泳ぐ……そんな不親切な迷路をできる限り減らし、どれだけ美しい一本道を作って物語世界に誘えるか。
『NICOLA』の連載を通して学び、まだとても完璧とは言えないまでも気をつけていることです。
・台詞回し(書き言葉から話し言葉に)

例として4月編より抜粋。かなり詰めた印象を受けます
ここのセリフは、実際はLINEのメッセージなので 書き言葉に近くても間違ってはいません。しかし百花のキャラクターを考えるともっと軽い言い回しになるな…と感じました。

上段は少し削り、下段は吹き出しを変えずに修正。
これが演劇漫画であれば「当て書きとは具体的に何か」を読者にわかるよう説明する必要がありますがここでは不要。「百花がどう思うのか」に焦点を当てたセリフに変更しました。
細かい変更点について
・各キャラクターのLINEアイコン
全員修正しました。
当初、誰が話しているか画面上でわかりやすくするためにそれぞれの顔にしていましたが、「アイコンが自撮り」感が出てしまったため。
後ろ姿だったり絵画だったりフリーアイコン(本の頒布を考え、念のため商用利用可のもの)だったり、各人が使っていそうなアイコンに変更しています。
・固有名詞の削除
第一話に絵ではなく字で入っていた美術館等の施設名を削除しました。
個人の趣味の作品とはいえ大事をとって許可をいただいておりましたが、物語の初めのほうに固有名詞があると壁を感じるからです。
シーンの意味が変わるほどの大きな変更はしないと決めた中で、約1ヶ月ほどかけて編集・修正そして入稿データ作成を行いました。
第一話が特に修正点が多く、かなり手こずりました。当然ですが漫画に慣れてきた後半は直しが少ないです。
冒頭カラー2pは本で口絵になるため、こだわって丸ごと新しい絵に描き直しています。これは以前から進めていたので慌てずに済みました。
なお、印刷所より「途中でカラーページを挟むのは乱丁落丁の原因になりやすくお勧めしない」との案内を受けたため、7月の冒頭(ムラステの様子〜クロエのアクスタを自引きするシーン)は本ではモノクロになります。
その分、カバー表紙と口絵に全力を注いでいます。
・真弓をいい子にしすぎてしまったシーンの話
Twitterでお話していた、
「当時私が日和ったのか 真弓を心の中まで良い子にしすぎてしまった一箇所がずっと気になっていた」
というのはここです。

「怒りの感情や不愉快さは全面的に田口(ニコラ)に対してであって、ちえりちゃんには同情している」という風にとれます。内心を示す形で書いてしまったためです。
ここに違和感がありました。
セリフは嘘がつけるけれど、モノローグは内心なので基本的に真実しか書けません。
真弓は、いいお姉さんの顔はしていたいし自分の醜い感情からは目を背けたい。それでもこの話を聞いてちえりに心の奥底で嫉妬しないはずがないし、100%の信頼もしない、と思ってモノローグを削除しました。

具体的に何を考えているかを字で決め打たず、読んでくださる方が想像できる形にしました。
たった一コマの修正ですが、とても大事な箇所です。連載を通して真弓という少女がどんどん明確になっていった中での変更点でした。
追記:百花視点の9月編ラストのページについてここで言及していましたが、入稿データ修正時に該当ページを抜いたため削除しました。

代わりに、このページの削除理由を書きます。
・百花の中で真弓の内面の解像度が高くないため。「真弓なら自分が特別扱いされても"プロ意識が低い!"って怒るんだろうな」と考えているくらいなので、この発想には至らない。
・今後真弓が自分で気がつくことを、他人の視点の時に文字にして示すのは控えたいと思ったため。
です。落丁ではありませんのでご安心ください。
お喋りを聞いてくださってありがとうございました。
明日、3月10日(金)22時から 本になった『NICOLA』の通販予約を開始いたします。
お手にとっていただけましたら幸いです。
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