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トスカーナの天使




書籍版『NICOLA』特典ブロマイドの解説手記です。



・撮影秘話

・この写真と真弓の思い入れ

・彼女の知らない天使の姿



が今回の主な話題です。

最後のお話に移る前にはワンクッション入っていますので、お読みになるかどうか選べます。どうぞ安心してお進みください。







NICOLA AMANO 2019 toscana, ITALY




 2019年の春、イタリア・トスカーナで撮影。

 20歳になったばかりのニコラが写っている。

 撮影者については後述。


 この時点でニコラはムラステに内定しており、スケジュールが2020年の夏(作中で言うところの7月編)までおさえられている。


 彼の20歳の誕生日祝い、そして初めての大きな舞台への出演が決まったお祝いを兼ねた旅行。



 衣装は現地で調達した。

 最初はなんとなく古典的な、絵画の天使のような布を巻いたものを想定していた。しかし実際に古い街並みと今の生活がマッチした現地の美しい風景を見て、主に撮影者の案でテイストが決まっていった。


 透け感のある上着が、レディースなのに外国のものだからか丈が長すぎて引きずってしまったことなど、撮影時のささいな笑いややりとりをニコラは楽しかった思い出としてよく覚えている。


 こうして、20歳を迎えてもなおまだ未分化な趣のある透明な美しさを写真に残して永遠にした。




 この写真は、別の絵柄と合わせて3枚1パック600円で販売されていた。


 事務所に所属する前はニコラ個人の通販ページがあった。真弓はムラステで初めてニコラを生で見た日の夜にそこで購入している。


 真弓は同じものを2セット、百花は1セット購入。

 送料を折半し会う時に手渡しした。

 なお、もともと数が少なかったこともありその後すぐに売り切れたため「ほんと買ってよかった!!!」と百花と何度もテンション高く話した。




 真弓は、ニコラを追うのをやめるにあたって、この「トスカーナの天使」1枚だけを手元に残している。いちばん彼女の琴線に触れたから。


 クロエちゃんから入り、ニコラ演じるクロエちゃんのことが本当に大好きだったけれど、たったひとつならばと自分の感性に従って選んだ。


 その他のブロマイドやグッズなど思い出の品は、気持ちに整理をつけるために思い切って手放した。野菊さんの好意で預かってもらい、その後ニコラの新しいファンに譲られた。


 「新しいファンにとっては過去のものは手に入りにくいのでとても喜んでくれた」と聞き、私のエゴだけれどよかったと真弓は思っている。





 ニコラのファンを降りてから、真弓がこの「トスカーナの天使」を見た回数は3回。


 就職を機に実家を出るため荷物の整理をしたとき、そして『NICOLA』を描き始める前と完成させたとき。



 この写真は彼女にとって、天国と地獄をジェットコースターのように往復した2020年の記憶と感情のすべてを蘇らせる装置として機能する。


 感性の死を遠ざけたい真弓は、何度も見て慣れてしまい鮮烈さがなくなることを恐れ、箱に入れて禁書のように鍵をかけている。

 大切なものであると同時に呪いでもある美しい写真。





 実際に制作する際、通常のポストカード印刷に加えて質感が写真の表面に近くなる加工をお願いしました。本物のブロマイドとして愛でていただければ幸いです。


 裏面に第一話初稿が読めるコードもついていますので、併せてお楽しみください。







 





 これ以降の内容は、ニコラの家族構成など、人間としての側面に触れています。天使ではない現実の生活を送る彼に言及していますのでお気をつけください。


 なお、『NICOLA』自体を未読の方は絶対にこの先へ進まないで下さいね。
















 写真の撮影者はひと回り歳の離れた彼の姉です。

 イタリア行きは家族旅行。


 田口家の家族構成は、


・大学教授の

・ピアノの先生の(作中で触れた野菊さんの先生)

・12歳上の

・9歳上の

・本人


です。


 個性を尊重する文化的で裕福な家庭で、愛されてすくすく育ったかわいい末の弟がニコラ。


 生まれた時からたくさんのカルチャーに囲まれて、なんにでも触れることができた。少なくとも親やきょうだいに好きなものを否定されたり、らしさを押し付けられることがなかった。


 「たいていの俳優はバイトをしないと食べていけない」と言われるけれど、親から仕送りをもらっているため彼はバイトをしていない。


 それについて決して何も考えていないわけではない。何歳までに仕送りのいらない独り立ちをしよう、など目標は定めているが、百花のような現実派からすると「クソボンボン」です。


 ニコラに何となく詰めが甘い感じ、ギラギラしていない感じがあるのは彼の育ちがそうさせているから。



 姉は背が高くてイケメンと言われる感じの女性。趣味でコスプレ活動をしていて、衣装は自作で主に男装。裁縫と写真に慣れており、ニコラの活動に協力してくれる。


 兄は趣味で配信と作曲をしていて、ときどきニコラにオリジナル曲の原案をくれる。本当に本当に恵まれた環境です。


 暗黒の高校時代を送った真弓と違ってニコラは総合高校に通い、さまざまな葛藤はもちろんあれど感性の共鳴する仲間たちに囲まれて学び、自分として息をする自由を手にしていました。



 そうだったからこそ表現活動をして、"天使"になれました。天使になりたいと思う感性が育ちました。




 なお、ニコラは制作側関係者の大人ウケが非常によく、同世代同業者の同性ウケはよくないです。

 よくない、というか他の(5月の配信シーンに出ているようなタイプの)俳優さんがたと交流をするのが難しい。


 浅めの付き合いの男性だけの輪の中で自分の居場所を探すことが苦手で、女性の知人友人の方が多い。

 波長が合う人とゆっくり作品の話をして一対一の関係を築く方が性に合う。実は少し、真弓と似ています。









 4.29

 なんだかきれいなことばかり書きすぎてしまったので追記します。


 ニコラは真弓と完全に同じ目線に立って世界を見ているわけではありません。残念ながら、どんなに似ていると真弓が感じてのめり込んで共感しても彼女が思うところの「私たちと同じ生き物」ではありません。


 たとえば誤爆してしまった内容がもう、そうではないことを物語っています。真実はわからないとしても裏にあるものを感じてずっと考えて汚いと思って苦しんだ真弓という少女の純度の高すぎる潔癖な信頼を取り戻すことは今後一生ありません。


 野菊さんにとっては気にならないし許せる。真弓はどうしても許せなかった。それだけです。ファンは推しに似るという言葉の通り、ニコラに惹かれる人は、みんなどこかニコラに似ていることは本当です。










お読みいただきありがとうございました。

手記の目次はこちら


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