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8月30日なんか来なければよかった

  • 水野みやこ
  • 2020年10月10日
  • 読了時間: 5分

更新日:1月19日





ここまで物語を綴ってきたことで、やっとこのお話ができるようになりました。


読切として先行している『少女の心臓』にも、ニコラの誤爆シーンがあります。お話の構成は違いますが、同じ8月29日から30日にかけての深夜があるのです。


今回の手記はそれぞれを引用しつつ、描写を変更した理由、シーンをつくるにあたっての狙いなどを綴っています。


創る段階、制作裏的な視点のお話が多いです。完成した作品のみを楽しみたい方にはあまりお勧めできない内容となります。お気をつけください。





『少女の心臓』の誤爆シーン



『少女の心臓』では、一切の積み重ねがありません。ここでのニコラは、突然出てきた、主人公の推しらしき初登場キャラクターでしかない。

『NICOLA』と同じ描写だけだと、絶望する理由がわかりにくくてショックが薄まってしまいます。


そこで、積み重ね無しでも真弓の絶望に共感してもらえる内容にするため、


「気持ち悪さ」

「誰でも嫌悪するような下品さ」


を前面に出しました。



ニコラは本来、少なくとも女性への加害的視点を持つキャラクターではありません。けれどそれは、読切ではどうでもいい。インパクトを優先して悪役になってもらうことに。



また、「真弓は男性があまり好きではない」と分かる描写をそれまでのページに入れています。

そこに、「胸の谷間が見たいからかがんで欲しい」という「女性に害のある男性」的な要素で嫌悪が加速。

本編とは趣向の異なる、しかし手の施しようがない絶望として描きました。





『NICOLA』の誤爆シーン



『NICOLA』では、既に約半年分の積み重ねがあります。私はこの積み重ねのことを「天への階段を昇らせる」とプロットに書いています。


突き落とすことは、もうずっと前から決まっていました。昇れば昇るほど、落ちる距離が長くなる。


小さな上下(真弓の感情のジェットコースター、曲が選ばれなかったと思い沈んでいたら演奏されて舞い上がるなど)を組み込みながら、どんどん昇らせ、最高に幸せなところで地獄に落とすことを。


そうしてずっと計画して進めてきたのに、8月編後半を更新するときは、ああ、私がこのまま時計の針を進ませなければ彼女たちは永遠に幸福なのだと、躊躇しました。


いざこの日が来ると可哀想になりました。生きている人間として、現実と同じ時間を歩ませてきたからでしょうか。



話がそれましたが、誤爆自体の内容としては『少女の心臓』よりマイルド。

けれど悪い想像ができる部分がたくさんある。百花の言う通り、「これだけで全部わかるよね」です。


素で投稿している感じを出すために、内容がシンプルになるよう気を使いました。

写真部分も読切ではアップでしたが、こちらでは天使のニコちゃんなら絶対に見せないようなポーズをつけ、普通の男子っぽさを出しています。



半年分の物語の積み重ねがあるので、もう、ちえりちゃんを

「性的な目で見ている」よりも

「彼女が圧倒的に特別らしい」

の方がダメージが大きい。


見た瞬間は前者の嫌悪感が勝るかもしれませんが、長引く絶望は後者。



一番変更を加えたのが誤爆後の対応です。

読切では削除後、まったく関係のないツイートをしてなんとなく煙に巻こうとしていました。それが『NICOLA』では、乗っ取られた風にうそぶいて誤魔化そうとする。


実はこの描写、プロット段階では『少女の心臓』と同じにする予定でした。

まだ何か足りない、まだ研ぎ澄ませると思い、絵を描きながら決めた展開です。


これにして良かったと思っています。馬鹿らしくて姑息で腹が立つ度合いが段違い。慌ててこう言いたくなる人間くささ、だからこそやってほしくなかった。天使が剥がれ落ちる。最悪ですがものすごく気に入っています。


ニコラの美しく聡明な印象を裏切る場面。天使がただの人間であるという悲しみは、これまでの半年で天使を見せている状態だからこそ機能する。

『少女の心臓』の時点で思いついていたとしても、あまり効果はなかったでしょう。




誤爆シーン以外にも細かい変更点はあります。百花の髪の色もそう。


連載前にドローイングなどで百花を描いていたときは白で、『少女の心臓』だけ黒なのです。黒で描こうかなーとちょうど思っていた頃だった、それだけです……

その後、真弓を白黒におけるグレーにしたことで、バランスを考えて百花は白に。



彼女は一番大きく設定が変更されたキャラです。連載直前に出した登場人物紹介では


「服装が真弓に寄っていく」

「東京寄りの静岡に住んでいる」


という設定が書かれていましたが両方ボツに。上の画像でも、服が真弓寄りですしリボンをつけています。

実際に連載された内容の百花には、服装を真弓に寄せる財力はありません。



ちえりちゃんの名前も変更しています。


『少女の心臓』の時点では、初登場時にうさぎ柄のお洋服を着せるつもりで 実々(みみ)ちゃん でしたが、さくらんぼ柄で ちえりちゃん になりました。


実々ちゃんだと、一番若いキャラにしては字面が少し固いので、ちえりちゃんにして良かったと思っています。

可愛らしくて賢そうで、ひらがなで柔らかいイメージ。


彼女とルリさんは既刊『少女の国』に出ています。『NICOLA』で二人のと関係がその通りになるかどうかは、今は伏せておきますね。



ところで、今回『少女の心臓』を読み返して、高校時代のシーンで真弓のママのセリフがあったことを思い出しました。(引用はしません、今はお持ちの方だけの秘密ということで……)


この、真弓の好みを否定するようなことを言うママ=9月編最終ページで優しい言葉をかけている思慮深いママです。


キャラクターイメージを変更したわけではなく、どちらもママと真弓の関係性からきています。それは、真弓の持つ性質にも大きな影響を及ぼしている。

人は環境によって形成されると私は思っているので、背景を考えるのが大好きです。







ここまでお読みいただきありがとうございました!

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