『NICOLA』12月編に出てきた嶋倉可奈子の著作『サユリ』のあらすじ、制作秘話。
彼女は甘やかで烈しく
破壊的で無慈悲だった
本作の帯。
そしてページをめくると、短い序文が現れる。
「強い、脆い。優しい、残酷。泥臭い、美しい。
ああ、おかしくなってしまいそうだ!」
こう語る男は記者。ある事件の当事者とみられ、失踪した「峠 小百合」という女優の行方を追う。
ストーリーは六章に分かれている。
五章までは、「小百合」の高校時代の同級生たちを訪ねて回る。各章ひとりずつが語り、本文もすべて話し言葉。六章目のみ地の文がある。
記者の詳しい設定は付加されておらず、≒読者視点。自分が話を聞いている気持ちで読み進めていくことになる。
「小百合」に対する印象がそれぞれ違いすぎて、だんだん不気味に感じるよう構成されている。
高校時代の「小百合」は、有名な演劇部の部長。多くの部員をまとめあげる、長身の華やかな美人。
楚々とした可愛らしい名前とは裏腹に、鬼気迫るような凄まじさがあり、「鬼百合」と呼ばれていた。
作者・嶋倉可奈子による彼女の人物設定は、
大人と子供の間、少女と女の間を生きる存在。
以下、可奈子による構想段階のメモの引用。
(同級生目線のモノローグ)
あの子の渇きが私たちを動かした。
強烈な輝きに、青い春を丸ごと捧げたのだ。魔物と神様が一緒くたになったみたいな女に。それは祈りであり願いであり崇拝であり庇護であった。
ストーリー半ばまでは、同級生たちの話は繋がらない。ただ、男女問わず当時の激情や、未だ整理のつかない気持ち、彼らに残されたサユリの爪痕を垣間見る。
半ばを過ぎると、今まで点だった部分が線になり、一気に解決に向かって動き始める。
『洋館の少女』と若干近いタイプの話です。(すぐ見つからなかったのですが、以前どこかに記したはず……の可奈子の著作)
ひとりの少女を中心に据え、視点を変えながら進む。客体と主体が最後に入れ替わる。という可奈子の得意な構成を貫きつつ、ファム・ファタール的な破滅要素を持つ女を初めて書いた作品。
可奈子は物語をつくるとき、前と同じことはしない。いつもどこかに挑戦の要素がある。
……この表紙を描くの、かなり難しいと思いませんか? もし私だったら尻込みします。
時間の流れ上、真弓は1週間で描ききりましたが、何を描くか考えて構図を決めるだけで1ヶ月以上過ぎそう……
真弓は可奈子さんの大ファンで、何度も物語を読んでいてファンアートもたくさん描いたので、ほぼ作画だけだった、ということにしておきます。
『サユリ』を書くにあたって可奈子は、高校時代に出会った人物をモデルにしています。実際に演劇部の部長だった人。
演劇部所属の親友(既刊『少女の国』三話目に出てくる杏ちゃん)がいたことと、服飾部が衣装を作る関係で演劇部に出入りしていたため、よく知っている。
可奈子は演劇部員ではないので、「サユリ」さんの魔力にあてられなかった。第三者の目線で彼女と彼女のまわりの人の動きを見ていた。
当時は言葉にできなかったけれど、深く印象に残っていたそれを十年経って掘り返し、物語として昇華しました。
長くなりましたので、今回はここで筆を置きます。
最後のところに書いた、演劇部と服飾部の関係によって生まれる「大好きな親友が男と踊るための服を作らなければならない少女の話」という物語の種が私の中に存在します。
またいずれ何かの形で。
お読みいただきありがとうございました。
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