"女"になっていく友人に裏切られ続ける少女の物語『少女の心臓』、友人視点のお話。
ネタバレが含まれます。
先に作品をお読みいただけましたら幸いです。
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主人公・真弓視点では
「二人の世界を捨てられて裏切られた!」
となるこの物語ですが、友人たちの視点では違います。
真弓は自分に賛同してくれる人を強く求める。違いを尊重することがまだできない。
非常に繊細で、異なる意見を出されると否定されたと感じて必要以上に傷ついてしまうため、扱いが難しい。
真弓に応える。正解を出し続ける。
すると彼女はとても幸せそうに笑う。
「わたしたち特別だね」と、そっと手を包む。
やがて際限なく同一を求められるようになると、友人は
自分の考えを持つことが許されない
距離が近すぎて苦しい
と感じ始める。
互いに精神的に未熟、さらに学校という逃げ場のない環境が手伝って、ぼろぼろになるまで傷つけ合って終わることすらある。
一人目、紗和は『NICOLA』の百花とやや近い。
親と不仲で、あまり裕福でも文化的でもない家庭の子。
自我が薄めで影響を受けやすい。
真弓に引っ張られる。特別な二人でいられて嬉しい。
けれどもう小学生ではない。ずっとくっついているうちに、なにげない発言や振る舞いから格差を知り、傷ついたり恥ずかしくなる年頃。
自分より賢く教養がある真弓に馬鹿にされている、下に扱われているのではないかと感じてしまう。
地頭が悪い(と本人は思っている)ため成績は振るわず、名前を書けば合格すると言われている高校へ進学。
似た環境の子とつるむようになる。同じ目線の仲間ができる。もう無理に"上の人"と一緒にいて卑屈にならなくて済む。
中学では男子にいじめられていたけれど、初めて異性として見られ、求められ、存在を認めてもらえて嬉しかった。
うちは変わったんだ。
もうダサい子じゃない!
二人目、留菜は真弓とのバランスがいい。引っ張られるわけでも崇拝されるわけでもない。長く友達でいられた可能性があるのが彼女。
しかし、同じものが好きというだけで急速に距離が縮まり、友人になるための過程をいくつも飛ばしてしまったため、だんだんしわ寄せがきた。
真弓は人間関係リセット癖があり、中学時代までの知り合いがほとんどいない遠い高校を受験している(過去の手記参照)。クラスに親しい子は留菜ひとりしかいない。
けれど社交的な留菜には、中学からの友達や部活の仲間がいる。
その存在に嫉妬してしまう真弓。
湿度が高めの、面倒くさいと感じられてしまう行動をとる。
拗ねたり、遠回しに構ってもらいたがる。わたしなんか要らないんだよねと言って「そんなことないよ! 大事だよ」という言葉を欲しがる、など。
真弓が大好き。
一緒にいて楽しい。気が合う。
仲良しでいたい。
けれど真弓が全てではない。
距離を置きたい?
クールダウンしよう?
何を言っても絶対に傷つけてしまう。
そう悩んでいた時にちょうど彼と縁があり、新しい世界のドキドキ感に夢中になる。
私、知らないから避けてただけで、こんなに楽しいことだったんだ!
なんとなく伝わるように描いたつもりですが、彼氏は支配的でDV気質。彼女を従えたいタイプ。
そんな友達(真弓)は切ればいいし、ノートに絵とか幼稚園児みたいなことやってんなよ、と馬鹿にされて留菜はすっかり言いなりになってしまう。
そうだよね、彼が言うんだから子供っぽくて恥ずかしいんだ。
捨てよう。
この彼氏は留菜のことを全く尊重していない。自尊心を奪われるだけ奪われて半年くらいで別れます。
当初浮かれすぎて、周囲にけっこう自慢してしまった留菜は、しばらく居心地の悪い思いをします。
三人の友人の中で結衣は真弓より強く、はっきりものを言う性格。
八方美人でいい子ちゃんで長女気質の真弓が、自由に見える結衣に心寄せる形。
真弓は結衣に、恋に限りなく近い気持ちを抱いています。
それは思春期の一過性のものかもしれない。憧れと区別がついていないのかもしれないし
女の子が好きなのかもしれない。真弓にとって名前のない感情です。
キスをしたい、裸に触れたいといった気持ちはありませんが、とにかく独占欲が強烈。
学部もサークルも違い、積極的に接点を持とうとしなければ会えない結衣に、四六時中連絡を取ろうとする。
結衣が真弓に対してカミングアウト(とここでは表現します)したのは信頼があったからですが、だからといって何を差し置いても一番にしたい存在というわけではありません。
彼女は仲良くなるのにじっくりと時間をかけるタイプ。時間=仲良し度であり、真弓のような距離の詰め方はしない。
けれど真弓は、
わたしだけに全幅の信頼を寄せてくれた!
と勘違い。
出会って日が浅いにもかかわらず、
「二人でディズニー行こう(1泊2日)」
とか
「ねえクリスマスイブ空いてる?」
とか聞いてくる。まだ夏なのに!
そこまでくると正直うざったい日がある。
嫌いじゃないけど早い、まだ旅行ができるほど深い仲じゃない…と結衣は感じている。
結衣は「私は女の子が好き」と言いました。
それは「今までと今現在、女の子が好き」の意味であって、「これから先も未来永劫死ぬまで女の子が好き」ではない。人は流動的で、不変を保証するものは何もない。
だから「女の子が好き」と言った後で男の人と付き合って関係を持っても、真弓のことも過去の自分のことも裏切ってはいないし嘘をついてもいないです。
けれど私は、真弓のショックや悲しみを否定したくはありません。
「あなたにそのままでいてほしかった」
そんな自分勝手で、時に幼いと言われてしまうような感情が愛おしいから。
変わっちゃうこともあるよね、と割り切って笑って許せなければ「大人」じゃないというのなら、大人になんかならなくていいとすら思います。
「付き合ってみることにした」で終わっていれば、真弓はまだなんとか持ちこたえていたかもしれません。
結衣が性経験でマウントを取ってきた理由はただ一つ。
コンプレックスがあったからです。
一人目の紗和が
「自分は性的に求められています」
「性体験をしています」
とアピールしてきたのは、中学時代の彼女が学校の中で"陰キャのダサい女の子"だったこと、真弓に比べて自分が格下だと感じていたことに由来する。
男子にいじめられたり無視されていて劣等感があった。当時を知っている真弓に、もうあの頃の自分じゃないことを示したかった。
結衣はそうではない。
知りもしない相手から好意を寄せられるほど容貌の整った彼女は、とりあえずの機会を得ようと思えばいくらでもある。
それどころか、まだ中学生なのに親戚の成人男性に手を出されそうになるが訴えても誰も信じてくれないなど、一人前の人間として扱ってもらえない何の力もない頃から客体的に見られ続けた。男の人の嫌な部分ばかりを先に知ってしまった。
孤高で格好良い自分でいたい。
男は気持ち悪い。
けれど社会からの影響で未経験彼氏なしだと馬鹿にされるという価値観も持っており、ねじれたコンプレックスを抱えた彼女。
真弓に、自分の主義や媚びない格好よさをことさら言葉で示したがるのも、実際のところそうなりきれてはいないから。真弓の憧れの視線を浴びるのは気持ち良い。
やがて出会う「バイト先の店長」は他の男と違う存在だった。
穏やかで知的な大人の男性。嬉しくなって身を任せ、未経験と思わしき真弓を見下す発言に繋がる。
そこには、前述した「正直うざったい」からくる突き放してやりたい思いも含まれている。
「こんなこと言う子になってしまったんだ。もう今までの結衣はどこにもいないんだ」
喪失感と気持ち悪さが噴き上がるように溢れて真弓の胸の内を覆い、二人の時間はブッツリと終わる。
当たり前ですが結衣の彼氏が本当に信頼できる人間なら、自分のお店でアルバイトしている未成年の学生に手を出したりしません。これから傷つく未来が待っています。
真弓は、結衣を忘れません。
鮮烈だった。
彼女のことが本当に好きだった。
もうあの頃の孤高の存在はいないけれど、その手で描き出す少女の中だけに生き続けます。
お読みいただきありがとうございました。
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