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雪花石膏(アラバスター)の背骨を持つ少女



アリプロの『百合の日々は追憶の中に潜み薫る』の思い出と、妖精だった女の子の話。高潔な少女になりたかった話。







学校を卒業してから数ヶ月。部活の友人たちと久しぶりに集まってカラオケに行った。人数が多かったため、二部屋に分かれることになった。


お互い趣味を知っているので気兼ねはない。

同じ部屋に振り分けられた女の子たちが「これは推しの〇〇くんのイメージ」と私にとっては初めて聴く曲で盛り上がっていて可愛かった。何かに夢中になっている人が好きだ。


けれど彼女たちは、私の入れた『百合の日々は追憶の中に潜み薫る』の長いバイオリンの前奏が流れ出したら、連れ立ってもう片方の部屋に行ってしまった。興味がないものには冷たい。


途中で演奏を止めることもできずに悲しくなっていると、一人残った女の子が私の歌を真剣に聴いて、



「私、これ好き。みやちゃんが好きなのわかるよ。私の中のみやちゃんだなあ」



と言った。




この時はもうかなり人間だったが、

初めて出会った彼女は妖精だった。


周囲の順調に大人に近づいていく子たちには変人だと遠巻きにされていた。クラスでも部活でも浮いており、私にとっても最初はどう扱っていいのかわからない不思議な子だった。

カラオケでも、おそらく私に気をつかって残ったのではない。聴きたくて聴いていたのだろう。



『百合の日々は追憶の中に潜み薫る』。


この曲は私の憧れだ。初めて聴いた時、私の感じているすべてを言葉にしてくれたと感じた。

雪花石膏の背骨を持ち、凛と立つ高潔な少女。こんなふうになりたかったし、なろうとしていた。

現実の私は、自分の歌いたさよりも周囲の様子を見てみんなで盛り上がれる選曲をしなきゃいけなかったんだと後悔する程度の小さな心臓しか持っていない生身の人間で、高潔な少女からは程遠かった。

けれど彼女は、その瞳に映る妖精の世界の中で、私を一本の白百合にしてくれたのだ。



今の私が、作品を愛してくださる方へのお返事などでときおり「銀の糸」「同じ茎に咲いた百合」と表現するのはこの曲が示してくれた概念だ。


美しいものを愛する心や繊細な少女の感性をもつ、学校や会社や現実世界ではないどこかにいる同志のことを綴った言葉。感性で織られた銀の糸が私たちを静かに繋げている。



あと少しだけ妖精の話をさせてほしい。


大所帯で出かけるとき彼女を仲間に入れるか入れないかで多数決になり、入れないに投票してしまったことがある。残酷だ。

集団生活ではよくあること、子供だったから……などと簡単には忘れられず、今でも自分のずるさをなかったことにできない。


それから同じ部活に所属し長い時間を共に過ごした中で、彼女は私を一度も否定したことがない。

私に向けてくれた純粋な親愛、私の好きなものを知りたがるきらきらした瞳。私自身が話したことすら忘れていたような雑談を、ずっと覚えていてくれた。


彼女をもっともっと大切にすればよかった。


どこかで大人になり、もしもこの「醜く穢れに満ちた現世」で生きていくために妖精の力を失っていても、私は彼女の透き通る青い翅の美しさを忘れたくない。









お読みいただきありがとうございました。

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